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はじめに
 わが国の産業汚泥排出量は, 年間に1億7千万トンで,これは産業廃棄物全体の43%を占め1), だんとつの第1位である。
 汚泥の再資源化率はわずか11%で, 残りは埋立,焼却, 海洋投棄, 不法投棄されている。
 近年, 住民運動の高揚と, 埋立処分場の法的規制の強化で,埋立て地の確保が著しく困難になったため, 埋立て可能容量は,毎年急カーブで減少している。
 焼却は, ダイオキシン等環境ホルモンの問題が深刻化しており,また, 地球温暖化防止の観点からも忌避される傾向が定着している。
 海洋投棄は, 国際法上も国内法上も禁止になることは避けられない。「海洋還元」などという論法は,もはや通用しないのだ
 こうなると, 1億数千万トンもの膨大な量の汚泥の始末が深刻な社会問題を惹起することは必然である。
 汚泥を何らかの方法で適切に処理しないことには,日本の美しい自然環境が, 汚泥で無残に汚染されてしまう。げんに,北関東や東北各地に「汚泥銀座」なる汚泥不法投棄地域が発現している。
 汚泥の再利用については, いまも識者たちが熟慮中であるが,農地還元, 焼成, 溶融, 骨材資源化, コンクリート固化,固形化処理, 天日乾燥, ブラックソイル, 炭化,蛋白資源化, 燃料化, メタンガス製造…といずれもコストとデリバリー両面で欠点を克服できないでいる。
 もし, 汚泥の処理法として適切な技術が確立されれば,処理量は毎年1億数千万トンもあるので, 巨大なビジネスどころか,21世紀環境立国を目指す日本の基幹産業に成長する可能性すらある。
 ところで, 汚泥は放置すると激しく腐敗し,強烈な悪臭と害虫が発生し, 次には住民の苦情が殺到する。この腐敗の抑制,そして減量化と無害化, これが汚泥処理のキーポイントとなるが,本報は, 汚泥を特殊な分散機(開発コード名:『グルンバ・エンジン』)で微粒子化し, 細菌等極小微生物がアタックしやすい状態にしてから,次工程において嫌気性発酵消化→消散というプロセスを経て,最終的には汚泥という形態を消滅させるという新技術についての最新情報である。

(表 1)    産業廃棄物排出量(全国)
 産業廃棄物の種類  排出量(千トン/年)   割合(%) 
 燃えがら 2,678 0.7
 汚でい 171,450 43.4
 廃油 3,471 0.9
 廃酸 2,674 0.7
 廃アルカリ 1,547 0.4
 廃プラスチック類 4,334 1.1
 ゴムくず 94 0.0
 金属くず 8,533 2.2
 ガラスくず及び陶磁器くず 5,295 1.3
 動植物性残渣 3,543 0.9
 紙くず 1,193 0.3
 木くず 6,573 1.7
 繊維くず 99 0.0
 鉱さい 42,507 10.8
 建設廃材 54,798 13.9
 家畜ふん尿 77,208 19.6
 家畜死体 28 0.0
 ダスト類 7,491 1.9
 その他 1,218 0.3
 計 394,736 100.0
(備考)平成2年度, 厚生省調べ.
              平成5年版環境白書(各論)より
(表 2)   産業廃棄物の再資源化の状況
 産業廃棄物の種類  再資源化率(%) 
 燃えがら 17.5
 汚でい 11.5
 廃油 24.5
 廃酸 26.5
 廃アルカリ 8.0
 廃プラスチック類 31.2
 紙くず 63.2
 木くず 43.3
 繊維くず 51.1
 動植物性残渣 31.3
 ゴムくず 12.5
 金属くず 93.0
 ガラスくず及び陶磁器くず 50.8
 鉱さい 84.7
 建設廃材 16.0
 ばいじん(ダスト類) 78.0
 処分するために処理したもの 7.4
  (備考)平成2年度, 通商産業省調べ.
          平成5年版環境白書(各論)より



汚泥細胞破壊
   細胞の構造
 わが国において汚水処理方式の主流は, 活性汚泥法である。この方式は,好調時は清澄な処理水が得られるが, 欠点は大量の汚泥が発生することである。
 都市下水の標準的な活性汚泥処理では, 固形分1〜2%の汚泥が流入水量に対して1%強も生産される。このように大量に発生する汚泥の主要な構成成分は, 細菌, 真菌類, 藻類, 原生動物, 微少後生動物等の生物体である。2)
 生物の第一の特徴は, 細胞体であるということである.細胞内に「生命」は宿り, 細胞外と物質・情報の交換を行うこと,これが「生命現象」である。
 生物は, 細胞膜という強固なバリヤを張り,厳しい外部環境から自らを守りつつ生命を維持してゆく。    

  (表3)大腸菌細胞の成分
成   分
 水
 蛋白質
 核酸
    DNA
    RNA
 糖
 脂質
 アミノ酸, ヌクレチオド等
 無機物 
 70
15






図1は, 細菌細胞の構造図である。細胞膜は菌体の外側をとりかこむ膜状構造で,内側から細胞質膜, 細胞壁, 粘液層あるいは莢膜になっている。細胞壁は細胞質の外側にあるかたい膜である。3)
 何層もの様々な膜に守られながら, 生命現象は安全に進行する。図2に掲げた微生物たちも, すべて膜状構造に守られた生命体である。
 汚水の生物処理工程は, 図2の微生物群が汚水中の有機物や無機物を分解しつつ基質として摂取するプロセスであり,この微生物群の塊(フロック)が汚泥である。
 生物処理の最終は, 汚泥の脱水工程と次の汚泥ケーキ製造工程であるが,脱水されたとはいえ脱水ケーキの水分は80%もある。どんなに優秀な脱水機でも, せいぜい70%程度の含水率である。これは,細胞外の水分が脱水されただけで, 細胞内には,表3のように水分がたっぷりと残存しているからである。

生物処理に関与する水生生物の例

 従来の汚泥処理は, 生きた汚泥細胞であれ,斃死した汚泥細胞であれ, 強固な細胞膜につつまれた完全態での汚泥細胞を処理していた。これでは脱水も, 生物処理も不完全なままで終了せざるを得ない。
 もし, ここで細胞膜が破壊されれば, 細胞内の水分も簡単に脱水できる。のみならず,細胞質も外に出てくるから, 当然に処理の対象となる。
 図1にある細胞質は, 細胞膜に包まれた複雑なコロイド系である。細胞質内にはリボゾームのような代謝と関係の深い顆粒および貯蔵物質である多糖類, 脂質などの顆粒が含まれる。これらの栄養物質が細胞膜を破って外に飛びだせば,他の微生物の基質となりうるので, 新たな生物処理の展開が期待できる。
 汚泥の細胞膜破壊, この工程こそ新たな生物処理,すなわち汚泥成分の生分解→消散→消滅という画期的なプロセスの出発点になるのであろう。

細胞破壊技術   
 細胞の破壊実験については, 小林の浸透圧衝撃処理と音波処理による細胞破壊実験報告が興味ぶかい。4)
 浸透圧衝撃処理によって破壊された菌体の細胞は,内容物が飛び出し, 10kc/secの音波処理で細胞壁が破壊されたアゾドバクターは時間の経過とともに微粒子化していく。…この報告は, 細胞破壊→内容物散出→微粒子化→生分解という工程を暗示させる実験である。
 しかし, 浸透圧衝撃処理も音波処理も大量の汚泥を処理する方法ではない。年間に1億数千万トンという膨大量の産業汚泥を, 細胞破壊→微粒子化→生分解→消散というプロセスで消滅させる技術は,エネルギー浪費型の既存技術系からではなく, 突飛とも思えるような未来型発想から誕生するであろう。

A.汚泥細胞の分散化
 物質が微粒子となり水のなかで懸濁状態(サスペンション)になることを分散という。粒子の性能は粒子の径が小さいほど優れているが, 微粒子をつくる機械である分散機の性能と構造が対象物質によって異なるため, 設計条件と結果評価は共に重要なポイントになる。
 本報の場合, 菌体細胞を破壊し, 細胞膜も細胞質もともに微粒子にすることが基本的な設計条件となる。一般論として, 分散機は, 衝撃・衝突機能と剪断機能の一方または両方の機能をもつ。
 さきに述べたように, 細菌細胞は, 細胞質膜, 細胞壁, 粘液層あるいは莢膜と, 何層もの膜質に守られて強靭かつ柔軟な構造になっている。かかる細胞構造を破壊・粉砕するためには, 激烈な衝撃・衝突現象と, 強烈な剪断現象を同時に実現しなければならない。
 衝撃・衝突現象は衝突速度に応じて, また, 剪断現象はズリ速度に応じて効果が高まる。5) いずれも速度が最重要ポイントとなる。特にズリ速度は, 高速層流と低速層流を間断なく摺り合わせることが重要である。
B.分散機
グルンバ・エンジン  筆者が発案した分散機(開発コード名:『グルンバ・エンジン』)は, 高速で回転させ極限まで速度を上げた汚泥水が激しく衝突する際に発生する衝撃現象と剪断現象により汚泥細胞を破砕・粉砕する構造になっている。(図3参照)
 分散機・『グルンバ・エンジン』は, 滝と滝壷をイメージして発案された。
 滝と滝壷は水を構造的に変化させる。水と水,水と岩が激突し, 水塊が激しく引き裂かれ, 擦り切れ,強烈な発泡現象と酸化作用, 衝撃波と超音波が発生し, 清澄なイオンが周辺に充満する。…こういった「滝壷現象」が連続的に惹起するマシンとして『グルンバ・エンジン』は設計された。
 実際, 滝壷では, 水のクラスタだけでなく,魚の死骸なども微塵化する。『グルンバ・エンジン』でも,肉片やダンボール片が極微細なSSに変容する。さらに, 『グルンバ・エンジン』の衝突エンジン部分に微細気泡を圧入すると,微細気泡が破裂する際に発生する超音波の作用で, SSは一段と細分化される。
 筆者の実験では, 汚泥細胞も破壊されて, 微粒子にまで破砕・粉砕され,顕微鏡で詳細に観察しても正常な汚泥細胞は皆無であった。
 平成10年11〜12月, 千葉県の地場牛乳加工メーカーである古谷乳業の排水処理施設において実施した汚泥破壊処理実証実験では, 汚泥細胞の破壊状態を透水フィルターによって確認した。破壊前の汚泥細胞はフィルターによって100%捕獲されるが, 『グルンバ・エンジン』で処理された汚泥はフィルターを完全に通過してしまって捕獲できなかった。これは汚泥が超微粒子にまで破砕・粉砕されてしまったからで, 顕微鏡でも確認できた。(透水フィルターは新光ナイロン社のTN30を使用した)
 なお, 上記実証実験では, 2時間のグルンバ処理によって汚泥水中に溶解していた蛋白質や脂質等が析出し微細SS化する現象が見られた。この超微細なSSは40〜50分で完全に凝集し沈降した。

細粒子効果
   
 分散系において, 粒子の性能は粒子径が小さいほど優れているが,これは生分解速度についても当てはまる。
A.比表面積
1cm立方体と比表面積  有機物が微生物によって分解される速度は,微生物の数と種類が多いほど, また, 微生物がアタックする基質の比表面積が大きいほど早くなる。
 基質の比表面積とは, 物体1g当りの表面積のことで,物体が小さくなれば, それに応じて比表面積が増大する。 図4は, 1辺が1cmの立方体で表面積は6cm2である。この立方体を各辺10等分すると1辺1mmの立方体が1000個でき, この1000個の総表面積は60cm2になる。このように物体が小さくなれば, 比表面積も増大する。この関係は球体の系でも同じで,その計算例を表4に示した。 

(表4) 球状粒子の径と比表面積
 半径(mm)  比表面積(m2/g)
 1
 0.1 
 0.01
 0.001
 0.0001
  0.00120
  0.0120
  0.120
  1.20
 12.0

  表4で, 球状粒子の径が1mmの場合, 比表面積は0.00120m2/gにすぎないが, 径が0.0001mmになると比表面積が12.0m2/gと著しく増大する。6)
 自然界の微生物の大半は固形物表面に付着して生活しているため, 7)比表面積が大きいということは, 付着する微生物数と増殖率がともに増大することである。
 表4でいえば, 半径が1mmの球体1個よりも,半径が 0.0001mmのほうが1万倍の表面積をもつから,微生物数も1万倍ということになる。

B.内部からの生分解
 有機物の微生物による分解という観点からいうと,微粒子化はさらに重要な意味をもつ. すなわち,図4でいえば,1cm角の立方体は表面だけが生分解されるが,1mm角にした場合は, 表面だけではなく内部からも分解が進むということで,生分解の反応が速度を極限までアップすることが可能となる。
 また, 有機物の腐敗を抑制するために発酵させるような場合,有機物の形状が大きいと, 内部では腐敗が進行して,発酵するのは外部だけ, ということになるが,微粒子化により発酵菌を内部まで送ることになるので理想的な発酵が進行する。

C.微粒子と微生物間の引力
比表面積と反応性
微生物細胞は, 普通は負の荷電を帯びている。もし『グルンバ処理』されて破壊された汚泥の微粒子が,Fe3+, Co3+, Cu2+ など 2-3価カチオンを保持していれば,汚泥微粒子1個当りの微生物の付着量は著しく増大する。8)
 しかし, 荷電状態に関係なく, 図5のように粒子の表面積にもとづく吸着力,可塑性, 膨潤性, 凝集性, 等の粒子活性は, 比表面積の増大とともに高まる。
 このことは, 微生物細胞という超微粒子に関しても同様である。微生物の細胞径は,μm(マイクロメーター)のオーダーであるので, 比表面積は著しく大きい。
 従って, 汚泥微粒子と微生物は, 吸着力, 凝集性, ともに大であるので, その結合はきわめて急速に起こるのである。この結合後, 微生物は細胞外酵素(=消化酵素)を分泌し, 生分解を進展させることになる。


D.グルメバイオ
 動物は歯でかみくだいて食物を細分化してから摂取するが,微生物には歯がないので, かみくだくことができない。そこで,消化酵素に似た高分子分解酵素を細胞外に分泌し, 対象物を分解し低分子化する。これが生分解のプロセスであるが,微生物が分解しようとする対象物質を前もって人為的に細分し、微粒子にして, 微生物が“食べやすい”ように料理しようという発想,これが“グルメ・バイオ”という発想である。9)
 図5で示した反応性は, 化学的・物理的な反応性であるが,比表面積の増大(=微粒子化, 分散化)による反応性の向上は, 微生物による生分解をうける場合も同様で, 有機物も微粒子にしたほうが生分解は急速に進展する。これは,たとえて言えば, 人間がステーキを食べる際, 大きいままでは食べられないからナイフで肉を小さく切って食べるように,微生物にも食物を細断してから食べてもらいましょう,ということである。
 油(動植物油・鉱物油)を微生物により分解除去する際も,水中でエマルジョンの形で分散させて表面積を大きくすれば,微生物にアタックされやすい。油の大きな塊であるタール・ボールはその表面積が限定されているために微生物にアタックされにくい。10)
 本文のテーマである“汚泥の消散”の場合は,特にこの“グルメ・バイオ”の発想がなければ,汚泥は絶対といっていいほど消散しない。強靭な細胞膜に保護された汚泥細胞は, 細胞膜を破壊し, 細胞膜と細胞内物質を破砕・粉砕して微粒子化しなければ,汚泥細胞消散工程ははじまらないのである。
 なお, この“グルメ・バイオ”の発想には,刺身を切る(=細分化)だけではなく, ワサビや醤油やツマでの“味付け”の発想もある。この“味付け”にあたるのが光合成細菌の添加である。
 光合成細菌には表5に示すように細菌性葉緑素やカロチン系色素含有量が非常に高く,ビタミンも豊富である。 

(表5)    光合成細菌体(Rp.capsulata)中の
  ビタミンならびに色素含有量(1993. 小林達治)
種   類 光合成細菌
(μg/100g)
酵 母
(μg/100g)
ビタミン  B2
 B6
葉 酸
 B12
 C
 D
 E
 3,600
 3,000
 2,000
 2,000
 2,000
10,000IU
31,200
  2,900
  2,400
  1,700
     1
     -
 300,000IU

色素 細菌性葉緑素
カロチノイド 総量
56.1mg/g
41.7mg/g
-
-

 光合成菌の添加により, 光合成菌体中の豊富な栄養分を摂取した発酵菌類(特に乳酸菌)や放線菌が増殖し, 破壊汚泥細胞を腐敗させることなく発酵→分解→消散というプロセスが順調に進展するのである。
 なお,ここで注目すべきは, 光合成細菌培養の栄養剤として, 汚泥細胞を微粒子化するために『グルンバ処理』した際の溶液が著しい増殖効果をもたらすということである。このことは,汚泥細胞が蛋白質・脂質等の栄養分が豊富なためで, 現在この栄養分はコンポスト化する以外に直接的な利用法はないが,汚泥の栄養分を光合成菌や酵母等他の有用な形態に変換する新技術・新システムの開発の第一歩になると思われる。
 そのための要件は, 汚泥細胞が破砕・粉砕されて微粒子となり,その微粒子自体が他の微生物(発酵菌)の快適な“微視的棲み場所 (micro-habitat)”となるような条件を構築することである。その基礎理論は本章までに述べてきた通りであるが,具体的なシステムの構築方法については次章において述べたい。

汚泥消散処理システム

汚泥消散処理システム フロー図

図6を簡略化すると, 図7のようになる.
簡略フロー図
自然のなかで最も多く見られる微生物の生活現象は腐生(saprophagy)と呼ばれるプロセスである。これは, 生物遺体またはその分解途上の物質を栄養源として利用する微生物の生活のことである。
 汚水処理施設で発生する余剰汚泥が難分解性である原因は, 汚泥が微生物体であること, 微生物体が濃縮された塊になっていること, 凝集剤等の薬剤が混入されていること等である. さらに言えば, 余剰汚泥は, 大量のエネルギーを消費して, 人為的, 強制的, 生物化学的に製造された非自然的な産物であるため, 天然自然の腐生プロセスにはなじまないのである。
 しかし, 先に述べたように腐生とは生物遺体またはその分解途上の物質の生分解過程であるから, 好気性微生物の巨大な塊である汚泥も, 汚泥細胞自体は難分解性であっても, これを“分解途上の物質”に変容させ, 適度な条件さえ与えれば, 腐生プロセスは順調に進展する. この場合, “分解途上の物質”に変容させる処理工程が, 前章までに述べてきた『グルンバ・エンジン』による汚泥細胞の破砕・粉砕工程である。
 従って, 汚泥消散処理システムは, 『グルンバ・エンジン』を中核とした下図(図6)のような処理工程になる。

 図7のフロー図のように, 汚泥消散処理システムとは, 汚泥細胞を破砕・粉砕→微粒子化し, 発酵させ, さらに『ERS−7』という破砕汚泥微粒子消滅装置に投入して消散・消滅させるシステムである。
 『ERS−7』については, 次頁の概略図(図9)を参照のこと。 
図6のフロー図を実際のプラントで実現した場合のイメージ図が図8である。

汚泥消散処理システム イメージ図
A.汚泥消散処理工程の要点
 汚泥消散処理システム(図8)において, 余剰汚泥は最終沈澱槽から直接引き抜き処理を開始する。
 従って, 汚泥ケーキをつくる工程が不要になる。当然に, 凝集剤も不要になり, 汚泥ケーキの搬出→処分という工程は廃止される。
 引き抜き汚泥水は, グルンバ処理され汚泥水中の好気性菌の細胞構造がことごとく破壊された後, 発酵菌液が注入される. これにより, 微細な汚泥細胞破片に発酵菌がからみつき, 発酵分解がはじまる。分解途上の微細な細胞砕片は, 充分に発酵した後, 固液分離槽へ自然流下し沈澱する。固液分離槽で沈澱した細胞破片の一部は, 再度グルンバ処理槽へ返送され, 繰返し微粒化処理が施される。

       (図9)『ERS−7』の概略図
汚泥消滅機『バクトロン』は、消滅能力が効率的に発揮できるシンプルな構造です。
消滅作用の重要な働きをするのが、杉の間伐材をチップ状にし、さらに特殊加工した「ジーラ剤」という基材です。
ジーラ剤に膨大な数の有用バクテリアが住みつき、水分調整・保温・消臭・消滅などの優れた効果が生まれます。
<消滅機の特長>
@有機系汚泥を基材(ジーラ剤)内に投入しますと、微生物の発酵・分解作用で、
ほとんどが24時間で水とガスになり消滅します。
A消滅する際に発生する炭酸ガス・水等は、強制排出します。
B撹拌はタイマー付で、セット時間の調節が可能です。
C温度設定ができ、装置内は常に一定を保ちますので、処理能力を高めます。
D基材(ジーラ剤)は交換する必要はありませんが、年に20%程度を補充してください。
E有機系生ゴミなら、ほとんどのものが処理できます。
Fもし悪臭が発生した場合は、強力な土着の発酵菌により瞬間的に消臭します。
 (この発酵菌群は、O157も絶滅させます。)
<仕 様>
日量/20kg〜10tタイプまで各種あります。
 (その他、大量処理・特殊用途への対応も可能)
電  源:AC 200V  
消費電力:2〜50KWH
     (処理量により変動)

B.上澄水
 固液分離槽の上澄水には, 汚泥細胞内の栄養分を摂取して活力のある発酵菌群が大量に繁殖しており, これを既存の処理槽(曝気槽, 接触酸化槽)に返送することにより悪臭発生を解消するだけでなく, 既存処理装置の処理能力を大巾に向上させる。汚泥を栄養源として増殖した発酵菌群は, 汚水処理装置をパワーアップするだけではなく, 放流水の性質も変化させる。従来は, 大腸菌が多いため塩素殺菌剤で滅菌されていた放流水が, 発酵菌群によって大腸菌が駆除され, のみならず下流の環境を浄化する作用をもつようになるのである。筆者らが考案した栃木県足利市の川徳水産の汚水処理装置からの放流水は, 稼働3月後から実際に放流先河川の河底の環境を浄化しつづけている。

(表6)汚泥消散処理システム設計基準
装置への汚泥抜き取り量
グルンバ処理槽容量
発酵菌槽(1)容量
発酵菌槽(2)容量
固液分離槽容量
発酵菌培養槽容量
バクトロン ERS-7

グルンバ・エンジン
汚水流入量×3〜5%
汚水流入量×3〜5%
汚水流入量×3〜5%
汚水流入量×3〜5%
汚水流入量×3〜5%
汚水流入量×1〜2%
汚水流入量×0.5%の
処理能力をもつ型式

(汚水流入量×10%)HP

C.処理槽設計の基準
 以上のように『グルンバ・エンジン』を中核にした“汚泥消散処理システム”で発生する上澄水の副次効果には, @排水処理能力向上 A有用菌培養用の栄養剤 B土壌改良効果 C下流環境浄化 D悪臭の解消等々顕著なものがあるが, 本システムの目的は, あくまで“汚泥消滅”にあるので, 本システムの設計の際は, もっぱら汚泥の発生量を綿密に調査検討することが肝要である。
 もし, 余剰汚泥の発生量が汚水流入量に対して1%を超えているような場合は, 汚泥発生量の削減措置を考慮しなければならない。その方策としては, @曝気槽を接触酸化槽に改造する A原水調整槽にフロート型の接触材を投入し, 原水調整槽を調整槽兼接触酸化槽に改造する BMLSSを調査のうえ, 余剰汚泥の返送量を変える C連続曝気を思い切って間欠曝気にする…等々がある。
 標準活性汚泥法の場合, 余剰汚泥発生量の調査結果が, 汚水流入量に対して1%以内であったら, “汚泥消散処理システム”設計の際の各装置の容量等, 目安となる数値は下表(表6)のとおりである。

D.悪臭対策とバクトロン
 『グルンバ・エンジン』でスラリーを処理すると, SS分の沈澱率が向上して, 固液が界面を明確にして分離する. “汚泥消散処理システム”の固液分離槽においても微粒子化した汚泥細胞砕片が槽底部に集中するように沈澱する。この沈澱物を“汚泥・生ゴミ消滅装置”『バクトロン(ERS−7)』に投入すれば, 7〜20時間で汚泥残渣は消散・消滅する。この『バクトロン』は, 国内各社から売出されている一般的な「生ゴミ消滅機」と構造的にも機能的にもほとんど差はないが, 大きな違いは発酵菌培養装置と発酵菌点滴装置が付設されている点である。一般的な「生ゴミ消滅機」が悪臭発生により使用が停止される事例が多いことを考えると, 汚泥が悪臭の発生しやすい有機物であるので, 本システムにおいても『バクトロン』の採用が無難であろう。

E.生汚泥の混入
 処理場に流入した汚水は, 普通, 最初沈澱槽で汚水中の懸濁物質が沈澱除去される。最初沈澱槽で除去された汚泥は生汚泥と呼ばれる。本稿では, これまで主として最終沈澱槽に沈澱する余剰汚泥の消散処理を論じてきたが, 本システム(汚泥消散処理システム)は生汚泥の投入があっても何ら差支えない。むしろ, 農村集落排水などの生汚泥には栄養分の多い“新鮮”な有機物が多いので, 余剰汚泥と生汚泥の混合処理は微生物の種類が増えて生態相が厚くなるので生分解速度が向上する。
 ただし, 生汚泥はシステムに投入する前に破砕機で充分に破砕して細粒化する必要がある。その後の工程での微粒化は, 『グルンバ・エンジン』が行う。

自然消滅法(休耕田利用)

 汚泥は生分解されやすい有機物に富んでいるが, これを緑農地に施用すると土壌中で有機物が急速に分解されるので土壌が酸欠状態になり, 作物が根腐れる。
 また, 腐敗菌, 病原菌, 重金属, 各種難分解性汚染物質, 悪臭, 害虫等の問題があり, 汚泥の農地還元は問題がある。
 そこで汚泥のコンポスト化事業が普及してきたのであるが, コンポスト化は汚泥の処理方法としては理想的であるとしても, イニシャル, ランニングともにコストが高く, 品質面でも敬遠されており, 大巾な供給過剰になっている。このような状況のなか, 農地還元という汚泥の再利用法は行き詰りの状態にある。
 ここで打開策として提案したいのは, 休耕田を利用した汚泥の“自然消滅法”である。これは, グルンバ処理され, 次に発酵処理された汚泥細胞微粒子を集落排施設の近隣の休耕田に自然放置して熟成させるという方法である。この方法は, 先に述べた“汚泥消散システム”の最終工程での“バクトロン処理”の代りに休耕田を利用するという方式である。
汚泥の自然消散法 フロー図  図10のような工程を経て休耕田に圧送された汚泥スラリーは, 発酵しているので悪臭は皆無である。もし, わずかでも悪臭が発生したら発酵菌液を動噴すれば瞬間的に抑止できる。この工程は, 発酵を嫌気性のまま進行させるので野積みのままでよく, 切り返しも不要である。栃木県真岡市の大農家, 大塚克彦氏の田を借りた実験では, マルハ宇都宮工場の汚泥をグルンバ処理し, 発酵させた汚泥を野積みにしたが, 汚泥は1ヶ月で3分の1以下に減量した。注目したのは, 野積み汚泥をスコップで捲ると, 大量のミミズが繁殖していることであった。千葉県の地場牛乳加工メーカーである古谷乳業における汚泥消滅実証実験でも, 厳冬にもかかわらず大量のミミズが発生し繁殖した。これらの実験で判明したのは, ミミズは農地に投入された汚泥ケーキは全くといっていいほど食さないが, 発酵した汚泥微粒子は好んで大量に食し, 真冬でも団粒構造の優良な土壌を生成するということである。

有益菌の培養

(表7) 光合成菌拡大培養 培地溶液成分表
塩化アンモニウム (NH4CI) 1g
炭酸水素ナトリウム (NaHCO3) 1g
酢酸ナトリウム(無水) (CH3COONa・3H) 1g
塩化ナトリウム (NaCl) 1g
リン酸水素2カリウム (K2HPO4) 0.2g
硫酸マグネシウム(7水和物)(MgSO4・7H2O) 0.2g
プロピオン酸ナトリウム(C2H5COONa) 0.2g
DL-リンゴ酸(HOOC・CH2CH(OH)・COOH) 0.3g
ペプトン 0.2g
酵母エキス 0.1g
ビオチン 5mg
ナイアシン 50mg
微量元素溶液 1ml
蒸留水 1000ml
 汚水処理施設の維持管理費は, 電気料と汚泥ケーキ用凝集剤費用と汚泥処分費用であるといっても過言ではない。『グルンバ・エンジン』を中核とした“汚泥消散処理システム”の導入により, 凝集剤費用と汚泥処分費用はゼロになる。これは大きなマイナスがゼロになる大変なメリットであるが, “汚泥消散処理システム”の導入によって, さらに大きなプラスの価値が創造される。それは, 破砕汚泥細胞質を栄養源にした光合成菌の培養と緑農地への還元という方策である。
A.汚泥で光合成菌を培養
グルンバで汚泥細胞を微粒子化した際の溶液で光合成細菌を培養すると著しい増殖効果がある。これは, 汚泥細胞が蛋白質・脂質等の栄養分が豊富なためである。古谷乳業(株)の汚泥も栄養分が豊富で, グルンバ処理後の溶液を20%混合しただけの培養液で光合成菌が一夜で完熟したのである。
 筆者の実験室では、これまで光合成菌の拡大培養には, 栄養条件や温度条件を最適にしても最低でも4日を要していた。この場合の培地溶液は, 表7のような薬剤を調合した。
薬剤での光合成菌の拡大培養は費用が嵩む。したがって, 農緑地に散布するということは, コスト的に無理なことである。
 ところが, グルンバ処理後の汚泥細胞破壊溶液を利用すれば光合成菌液がコスト・ゼロで, しかも短時間で熟成するのである
B.光合成菌液の緑農地還元
硫化水素培地における光合成菌の生育と硫化水素の消長  光合成菌は, 図11のように硫酸還元菌が発生させる硫化水素を栄養源として積極的に利用する。11)
 小林によれば、光合成細菌は硫化水素だけでなく有毒アミンであるプトレシンやカダベリン, また発ガン催奇性のあるジメチルニトロサミン(dimethylnitro-samine)をも好んで基質として利用し, 分解・除去する。12)
 さらに, 光合成菌は緑農地に還元すると, 作物の根が好まない有害物質を分解・除去し, 根の呼吸・栄養代謝系を守り, さらに窒素固定をも行なうので, 作物の大増収という結果をもたらす。
 光合成菌は, アミノ酸, ミネラル, ビタミン, 等々優良な栄養分に富んでいるため, 菌体は有機肥料として作物に対して好影響を与える。
 さらに注目すべきことは, 光合成菌体には土壌中の放線菌が好んで基質として利用できる成分を含んでいるということである。光合成菌体を農緑地に土壌施用すれば, Fusarium oxysporum など植物病原性の強い糸状菌を食い殺す放線菌の増殖が促進し, 植物病原性糸状菌による連作障害は防除できるのである。13)

 …グルンバ処理汚泥水で光合成菌を培養し, 農緑地に還元し, 連作障害を防除し, 有機栽培作物を大増産させる機能が付加された悪臭ゼロの農村集落排水処理システム, これなら, 隣接農地所有農家も喜んで土地を提供してくれるであろう。 

おわりに

 連日, 全国各地の汚水処理施設で発生する膨大な量の汚泥(生汚泥, 余剰汚泥)は豊かな栄養分を含んではいるが, 現在, この栄養分はコンポスト化する以外に直接的な利用法はない。
 本論文では, 汚泥を超微粒子化→発酵→生物分解→消散という工程で消滅させるという画期的な技術と, 汚泥の栄養分を光合成菌液という有用な形態に変換する方策とその応用方法について述べてきた。これらの方策は, 日々深刻化する汚泥問題を解決する最も有効な方法になるものと考えられる。
 今後は, より大規模な汚泥消滅プラントを最小のエネルギーで稼働させる技術の確立に向けた努力が必要であろう。

【参考文献】
1)環境白書(平成5年版).1993.p167~171.環境庁編.
2)須藤隆一.1980.浄化に関与する微生物群,p20,活性汚泥法,思考社
3)C.R. Curds.1975.Protozoa In Ecological Aspects of Used-Water Treatmennt.edited by C.R.Curds and H.A.Hawkes,Academic Press.
4)小林達治.1993.光合成細菌で環境保全,p163.農文協.
5)森山 登.1995.分散・凝集の化学,p150.産業図書.
6)岡島秀夫.1989.土の構造と機能,p39.農文協.
7)服部 勉.1978.微生物生態入門,p47.東京大学出版会.
8)服部 勉.1978.細胞の表面特性と固体表面への付着,p54,微生物生態入門,東京大学出版会.
9)飯山一郎.1998.世界初の『超微粒化バイオとは』,pos-2,汚泥と光合成菌活用法を核とする新事業.Z-lantPress.
10)加藤良樹,林 昌宏,1994.微生物製剤による油の分解除去,p655,用水と廃水.
11)佐々木 健.1993.光合成細菌の生理と生態,p156,嫌気微生物学,上木勝司,永井史郎編著,養賢堂.
12)小林達治.1984.光合成細菌の自然界における役割と利用,p344,光合成細菌,北村博 森田茂廣 山下仁平編,学会出版センター.
13)小林達治.1984.光合成細菌の自然界における役割と利用,p349,光合成細菌,北村博 森田茂廣 山下仁平編,学会出版センター.