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点滴死:タオル使い回し ずさん衛生管理 谷本整形

泣く医者
三重県警の家宅捜索終了直後、涙ぐみながら取材に応じる谷本広道院長=同県伊賀市で2008年6月12日午後4時25分ごろ、傳田賢史撮影

 三重県伊賀市の「谷本整形」で点滴を受けた患者が異常を訴え、73歳女性が死亡した問題で、谷本広道院長が12日、診療所で報道陣の取材に応じ、点滴薬剤の作り置きについて「以前はたくさんやっていた」と述べた。一方、県の立ち入り調査などで、院内感染対策の指針がなく、作り置きした薬剤を事務机に置いたり、看護師がタオルを使い回しするなど、ずさんな衛生管理が明らかになった。

 院長が問題発覚後に取材に応じたのは2回目。県警の家宅捜索終了直後に玄関に姿を現し、「野戦病院のような診療所で、多い時は(1日)350人の患者を診ている。院内感染の発生率も高いと思う」と語った。

 「昨年と一昨年に(今回と同じような被害が出た事案が)2件あった」と明かし、「(看護師にはその後)そういうことをするなと言ったが、徹底されていなかった」と述べた。「反省しなければならないところが細部にわたっていろいろある」としたが、「私は早朝から深夜まで休みなく働いている。命をかけてやっている」と涙ぐむ場面もあった。

 一方、立ち入り調査などによると、診療所では毎朝、10〜30人分の点滴薬剤を作製。鎮痛剤の点滴の調合作業は待合ロビーの奥の「中待合」の作業台と隣接する点滴室の2カ所で行い、調合後は点滴室の事務机の上で薬剤納品用の紙箱に入れて保管。医療機関では手洗い後は紙タオルや使い捨ての滅菌布を使うのが普通だが、布製タオルを掛けて看護師が共有使用していた。

 県の担当職員は「感染症への認識が薄いという印象を持った」と話した。

毎日新聞 2008年6月12日 ORG-URL
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伊賀の点滴死亡:評判よい病院が…開業14年、市外からも患者 /三重

 点滴治療を受けた73歳の女性1人が死亡、ほかにも多くの患者が体調不良を訴える被害を出した伊賀市上野車坂町の谷本整形。発覚から一夜明けた11日、同整形前には早朝から数十人の報道陣が詰めかけ、上空には新聞・テレビ局のヘリコプターが舞う騒然とした雰囲気に包まれた。周辺では近隣の住民らが不安そうに県警の捜査を見守った。【渕脇直樹】

 谷本整形の建物には県警の立入禁止のテープが張り巡らされ、警官数人が周辺を警戒。時折、鑑識課員や捜査員が出入りし、報道陣が色めきたつ場面も。

 同整形のホームページによると、谷本広道院長(57)は78年、東京慈恵会医科大を卒業し、名古屋大医学部附属病院や東京厚生年金病院などで勤めた後、94年に開業した。

 4年前、足の骨折で点滴治療を受けたという近くの主婦(32)は「点滴の途中でかゆくなったので中断してもらった」としながらも、「評判はとてもよく、津など市外の患者さんも多かった。看護師も親切だったのに」と驚いた様子。また、無職の男性(84)も「(谷本院長は)おとなしく、近所づきあいはほとんどなかった。数年前に治療を受けた時は問題はなかった」と話していた。

 ◇不安のある市民からの相談対応−−伊賀市が対策本部

 伊賀市は10日深夜、今岡睦之市長を本部長とする対策本部を設置し、情報収集を始めるとともに、市民の相談に対応している。

 対策本部は関係部・課長ら16人で構成し、11日朝までに2回の会合を開いた。谷本整形に対し、患者リストの提供を求めたほか、点滴などの治療を受け、不安のある市民向けに相談窓口をケーブルテレビや市ホームページで紹介している。

 市総合危機管理室によると、谷本整形で治療を受けたという男性から「健康被害がないか、不安」との電話が11日午前6時ごろ、市役所にあったという。

 ◇9日に5人救急搬送、うち2人は谷本整形から

 伊賀市消防本部は谷本整形で治療を受けた市内の高齢者5人を9日に救急搬送していた。いずれも点滴後、悪寒や頭痛、吐き気などの症状を訴え、このうち2人は同整形から運ばれた。

 救急搬送されたのは78歳、80歳の男性と71歳、77歳、80歳の女性。このうち谷本整形から運ばれた78歳の男性と77歳の女性は夫婦。一緒に谷本整形で点滴を受けた後、体調不良を訴え、通報を受けた救急隊員が上野総合市民病院に搬送した。

 5月23日にも、「整形外科から帰宅後、気分が悪くなった」との119番通報を受け、市内の84歳女性を救急搬送したが、谷本整形かどうかは不明。

 同消防本部は9日、5人が同一病院の患者だったことから上野総合市民病院の医師に病名を問い合わせたところ、「調査中」との回答だった。感染症の恐れがあるとして、救急車内の消毒を要請され、隊員が着用していた白衣やマスクは処分したという。

毎日新聞 2008年6月12日 地方版〔伊賀版〕 ORG-URL