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米朝接近と孤立する日本 ヒル国務次官補は9月2日、6ヶ国協議の米朝作業部会のあとの記者会見で「北朝鮮が年内に全ての核計画の申告と核施設の無能力化を実施することで合意した」と発表した。それに呼応して、北朝鮮外務省は3日、「無能力化など一連の措置を年内に実施する」と述べ、米側の発表を裏付けた上で、「その見返りとして、米はテロ支援国リストから我国を削除するほか、対敵通商法に基づく制裁も解除することも合意した」と付け加えた。 こうした食い違いはあるものの、米国が北朝鮮のテロ支援国指定を解除する姿勢であるのは疑う余地がないだろう。 一方これは、拉致問題を抱えて北朝鮮との関係改善に一歩も踏み出せない日本にとって、極東アジアでの孤立に繋がりかねない。 元NYタイムズの論説委員で、現在独立系のシンクタンクの「北東アジア安全保障プロジェ クト部長」であるレオン・V・シーガル氏は、「中央公論」07年8月号に掲載されたインタビューで、「米国と北朝鮮の間の『呼吸の一致』が目立ちはじめ、拉致問題の進展を前面に押し出してきた安倍外交の孤立化の懸念が際立ってきた」と指摘していた。 ところで、ブッシュ大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指ししてから5年、米国のスタンスが180度変わったのはなぜだろう? 北朝鮮に豊富な鉱山資源があることは、以前から知られていた。朝鮮半島は世界の「鉱物標本室」と呼ばれているように、200種を越える有用鉱物の存在が分かっている。代表的な鉱石に、タングステン、ウラン、マグネサイト、磁鉄鉱、黒鉛などの「レアメタル」の鉱脈がある。 実は、近年ウランの国際取引価格が急上昇している。ウランの価格は1ポンド(約0.45Kg)当たり、2000年末には7ドルであった。それが02年に10ドル、06年6月に44ドル、12月中旬に72ドルと、この6年間で10倍に達した。07年には75ドル、08年に80ドルへ上昇が見込まれている、と言うのである。地球温暖化対策として、原子力発電所が中国やインドなどで多数建設されることが影響しているようだ。 ウランの世界の確認埋蔵量は474万トン、オーストラリアが114万トン、2位がカザフスタンで81万トン、そして3位がカナダの44万トン、米国は4位で34万トンである。一方、北朝鮮のウラン埋蔵量は400万トン(韓国統一院)という説もあるが、この根拠は不明である。日本原子力産業会議では埋蔵量2,600万トン、採掘可能量400万トンという数字を出しており、数字上では韓国統一院と一致する。これは昨年の世界での確認埋蔵量に匹敵する数字である。 米政権内でネオコン的な単独覇権主義が力を失い、国際協調路線が台頭してくると、北朝鮮の鉱山資源に対する利権獲得への動機が表に出てくる。実際に、米国の金属商社のカーギル、鉱山開発技術を持つエンジニアリング大手のベクテル、さらにゴールドマン・サックス、シティグループの金融大手は、2002年の北朝鮮の核疑惑再燃前には、対北投資に意欲をみせていた。韓国の財閥現代グループが巨額の裏金を北朝鮮政府に渡すのも、こうした利権が狙いだ。 年初来の米朝交渉の劇的な進展は、こうした米政権内の勢力地図の塗り替えによって始まった。こうなると、拉致問題のために頑として6ヶ国協議の進展を望まない日本の立場が難しくなってくる。6ヶ国協議進展のための米国のシナリオは、「日朝は、2002年の平壌宣言の時に立ち戻って国交正常化に向けた交渉のテーブルにつく。拉致問題は、その中で合同調査などを通じて解決していく。」というものだ。 今、安倍首相の辞任を受けての総裁選で、福田康夫候補は「自分の手で拉致問題を解決したい」と、大胆に踏み込んだ発言をしている。もしかしたら、米政府筋から「日朝国交正常化交渉と、拉致問題の交渉を並行で進めるなら、そのお膳立てをしても良い」というバックアップのオファーが入っているのではないだろうか。安倍首相とともに、対北朝鮮強硬路線を先導してきた麻生太郎候補は、今回も芽がなさそうだ。 |