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●巻頭特集 乳酸菌大活躍
ふだん一番よく名前を聞くこの有用菌は
一番身近にいる菌でもあるらしい。
「掃除屋」の異名は、その抗菌作用のなせるワザ。
人の身体にも作物にも役立つこの菌に
ますます活躍してもらおう。乳酸菌を捕まえる 使う―
乳酸菌液を手に持つ福島みよ子さん 米のとぎ汁で集めた乳酸菌で ネギの病気1/10
茨城県坂東市・福島みよ子さん
茨城県坂東市の福島みよ子さんの作業小屋には、2リットルサイズのペットボトルがどっさり。20本ぐらい、いや、庭の隅にもまとめて置いてあるから、その倍以上か。中身はうっすら白く濁った半透明の液体で、フタを弛めると、プシュッ! ヨーグルトのようなにおい。なめてみると、ほのかに酸っぱい。
これ、じつは福島さんの使う乳酸菌液なのだ。米のとぎ汁と牛乳を材料に、ただいま量産中である。
自分でつくれば安上がり、妹からももらう
福島さんは5反ある畑の半分以上にネギを作付けている。スーパーのインショップで年中販売、そして、この乳酸菌液も年中散布。乳酸菌歴は「現代農業」の記事(2004年10月号)を見てからだから、かれこれ6年ぐらいになる。
「昔は農薬を減らすため、ネギをおいしくするため、いろいろ資材も取り寄せたわよ。だけど、お金かかるでしょう。その点、乳酸菌なら一番手軽。自分でつくって、今ではもうそればっかり使ってる」
そこらにいる乳酸菌を呼び込むための「米のとぎ汁」はもちろんタダ。集まった乳酸菌のエサになる牛乳も、スーパーで安売りしている「低脂肪乳」ときている。極めて経済的なのだ。
ただし、母ちゃん農家の福島さん、「晩ご飯は毎日娘のとこで食べるから、うちでは朝と昼だけ。一人だし、米は1週間4合もあれば十分。いっぺんに炊いて、小分けして冷凍してる」。それでも米のとぎ汁が出るたびに乳酸菌液は仕込んでいる。毎週2リットル、ということになる。そのうえ、福島さんには、しあがった乳酸菌液を手に入れるツテだってあるのだ。
「妹がお店やってるんだけど、そこで売る漬物用に畑もやってるのよ。だから『肥料なくてもおいしいのできるよ』『農薬使わないでもできるよ』って乳酸菌液のつくり方を教えてあげたんです」
妹さんのうちでは毎日欠かさずご飯を炊くので、米のとぎ汁も潤沢。それで毎日毎日乳酸菌液を仕込むもんだから、とてもじゃないが使いきれない。「妹のうちでは永遠に貯まっちゃうから、もらってくるのよ」。
福島さんのつくるネギ。やわらかい品種を選んでいる 濃く、そして大量に散布
つくって、もらって、増えていく乳酸菌。福島さんにとっては、量が多いにこしたことはない。まず希釈の倍率が濃いのだ。
「『現代農業』には、1000倍でって書いてあったけど、わたしは100リットルの水にペットボトル2本(乳酸菌液4リットル)の割合。回数多くやれないから、ちょっとぐらい濃くても大丈夫」
現在、福島さんは月に2回のペースで、動噴で散布している。それから「気がついたとき」や「病気が出はじめたとき」にも、背負いの噴霧器でちょこちょこと。
「本当は定期的に、1週間に1回やりたいんだけど、なかなか……」
忙しいのだ。福島さんは1日おきに3店舗のインショップにネギを持っていく。1店舗につき30袋(1袋3本)ぐらいだから、一度に合計90袋。それだけのネギを一人で収穫しなくてはならないし、根を切り、皮をむき、袋に詰め、車を走らせ……、そう頻繁に乳酸菌散布の時間がとれないのだ。その分、かけるとなれば徹底的に、である。
500リットルのタンクなら乳酸菌のペットボトル(2リットル)を10本、背負いの噴霧器(18リットル)なら乳酸菌液1リットル入れて水で割る。液肥やえひめAIを混ぜる場合もある 「1反歩に100リットルぐらいがちょうどいいのかもしれないけど、わたしは量を使うわよ。300リットル用意したのに、9aの畑で『あれ、もうないや』のときもあるからね」
「ゆっくり」「じっくり」が福島さんの散布方法である。葉面はもちろん、土の中にも染み込むように意識している。
白絹病が急に出なくなった
これだけ大量に乳酸菌を放りこんだおかげか、福島さんは確実に“効く”と実感している。特に土壌伝染する病気が「急に出なくなった」という。
まず白絹病。以前は夏場ともなると、地際部に白い菌糸がまとわりつき、葉も溶けて虫食い状態。さらに菌糸はネギの中へ中へと食い込んでいき、ついにはベタベタしてくる。ウネ内でまっすぐ順々に広がっていくので、結局ウネ一本まるまるやられてしまうこともざらだったという。
「出てしまったらもうダメ。リゾレックス(殺菌剤)をいくらやっても死なないのよ。ベタベタも治らない」
それが乳酸菌液を使いはじめてからは、発症が目に見えて減った。
「実際、今でもさぼって乳酸菌ぶたない(散布しない)ことがあると、白絹病が這ってきちゃうもの」
難病、黒腐菌核病に
乳酸菌と石灰で立ち向かう
噴霧口をとりはずし、勢いよく散布。土にも染み込むようにたっぷりかける。防除だけでなく、ネギ自体を強くする効果や味をよくする効果もねらう。「乳酸菌液を土にやれば、根っこが吸うでしょ。わざわざ堆肥入れなくてもすむ。昔は反2t堆肥を入れてたけど、面倒だからやめちゃった」 それから、今、ネギ産地で大問題となっている黒腐菌核病。福島さんの地域も例外ではない。
「去年はすごかったみたいね。うちの隣の畑でも10mぐらいまあるく出てた。葉っぱが黄色くなって伸びないのよ」
かくいう福島さんも、かつては黒腐菌核病に泣かされた一人である。3月、ネギを引き抜くと「あら?」。根っこが腐っているのだ。しかも軟白部分が黒い。この黒をとるには、皮を三枚も四枚もむかなければならず、そうなるともう芯しか残らず、売りものになんてなりはしないのだ。
はじめはわずかな範囲の感染でも、トラクタを入れたら最後、畑一面台なしである。もうお手上げ。抜いて捨てるを繰り返す悔しい日々もあった。
「まわりの人は土壌消毒してるけどね、あれだといい菌も悪い菌もみんな殺しちゃうでしょ。なによりクスリが高いし。だから、わたしは乳酸菌をぶつ(散布する)」
ただ、それだけでは、どうしてもまだ不十分。そこで石灰防除との併用である。
「土をほっかける(1回目の土寄せ)前に、ウネに消石灰をまいてみたのよ。葉っぱにもかかるぐらい」
結果は、「すごくいいみたい」。「乳酸菌+石灰」防除で黒腐菌核病が明らかに減ったという。
予防剤は使わない、
それでも病気は10分の1福島さんの実感として、病気もろもろがなんと以前に比べて10分の1に減ったというのだ。農薬の使用回数もまわりのネギ農家に比べて、「10分の1よ、10分の1!」。土寄せのときに入れる殺虫剤と、スリップスが大量発生したときに「しかたなくかける」殺虫剤と、サビ病やベト病で「どうしようもなくてかける」殺菌剤と……、思いつくのはそれぐらいである。
「サビ病やベト病には、最近アミスターっていういいクスリが出て、わたしもよっぽどのときは使うけど、使用回数が限られてるでしょ。それに高いんだよね」
と、ここでもまたもったいない宣言である。あくまで農薬での防除は、虫対策と、病気が深刻なときの治療に特化している。
「予防剤? 使わないわよ。それじゃ減農薬にならないでしょ」
もちろん福島さんは、ネギばかりでなく、他の野菜にも乳酸菌を散布している。どれも直売所やインショップで売る野菜。
「農薬だと、作物によって登録が違うでしょ。いちいち調べるのも面倒。乳酸菌なら、全部に使えるからラクね」
同じ畑でこまごまたくさんの野菜をつくっている直売所農家には、乳酸菌防除、いいかもしれない。
福島さんの乳酸菌の捕まえ方・殖やし方
米のとぎ汁をペットボトル(2リットル)の8分目まで入れる 牛乳を上まで注ぎ、軽くフタ 2、3日すると、白い塊が上にフワフワ浮く。1週間もしないうちに、白い塊が沈み、透明がかった液になる。酸っぱいにおいがしたら完成。そのまま半年ぐらい保存できる
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