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D.グルメバイオ
 動物は歯でかみくだいて食物を細分化してから摂取するが,微生物には歯がないので, かみくだくことができない。そこで,消化酵素に似た高分子分解酵素を細胞外に分泌し, 対象物を分解し低分子化する。これが生分解のプロセスであるが,微生物が分解しようとする対象物質を前もって人為的に細分し、微粒子にして, 微生物が“食べやすい”ように料理しようという発想,これが“グルメ・バイオ”という発想である。9)
 図5で示した反応性は, 化学的・物理的な反応性であるが,比表面積の増大(=微粒子化, 分散化)による反応性の向上は, 微生物による生分解をうける場合も同様で, 有機物も微粒子にしたほうが生分解は急速に進展する。これは,たとえて言えば, 人間がステーキを食べる際, 大きいままでは食べられないからナイフで肉を小さく切って食べるように,微生物にも食物を細断してから食べてもらいましょう,ということである。
 油(動植物油・鉱物油)を微生物により分解除去する際も,水中でエマルジョンの形で分散させて表面積を大きくすれば,微生物にアタックされやすい。油の大きな塊であるタール・ボールはその表面積が限定されているために微生物にアタックされにくい。10)
 本文のテーマである“汚泥の消散”の場合は,特にこの“グルメ・バイオ”の発想がなければ,汚泥は絶対といっていいほど消散しない。強靭な細胞膜に保護された汚泥細胞は, 細胞膜を破壊し, 細胞膜と細胞内物質を破砕・粉砕して微粒子化しなければ,汚泥細胞消散工程ははじまらないのである。

(表5)   光合成細菌体(Rp.capsulata)中の
ビタミンならびに色素含有量(1993. 小林達治)
種   類 光合成細菌
(μg/100g)
酵 母
(μg/100g)
ビタミン  B2  3,600   2,900
 B6  3,000   2,400
葉 酸  2,000   1,700
 B12  2,000      1
 C  2,000      -
 D 10,000IU  300,000IU
 E 31,200
色素 細菌性葉緑素
カロチノイド 総量
56.1mg/g
41.7mg/g
-
-

 なお, この“グルメ・バイオ”の発想には,刺身を切る(=細分化)だけではなく, ワサビや醤油やツマでの“味付け”の発想もある。この“味付け”にあたるのが光合成細菌の添加である。
 光合成細菌には表5に示すように細菌性葉緑素やカロチン系色素含有量が非常に高く,ビタミンも豊富である。 
 光合成菌の添加により, 光合成菌体中の豊富な栄養分を摂取した発酵菌類(特に乳酸菌)や放線菌が増殖し, 破壊汚泥細胞を腐敗させることなく発酵→分解→消散というプロセスが順調に進展するのである。
 なお,ここで注目すべきは, 光合成細菌培養の栄養剤として, 汚泥細胞を微粒子化するために『グルンバ処理』した際の溶液が著しい増殖効果をもたらすということである。このことは,汚泥細胞が蛋白質・脂質等の栄養分が豊富なためで, 現在この栄養分はコンポスト化する以外に直接的な利用法はないが,汚泥の栄養分を光合成菌や酵母等他の有用な形態に変換する新技術・新システムの開発の第一歩になると思われる。
 そのための要件は, 汚泥細胞が破砕・粉砕されて微粒子となり,その微粒子自体が他の微生物(発酵菌)の快適な“微視的棲み場所 (micro-habitat)”となるような条件を構築することである。その基礎理論は本章までに述べてきた通りであるが,具体的なシステムの構築方法については次章において述べたい。
5.汚泥消散処理システム
自然のなかで最も多く見られる微生物の生活現象は腐生(saprophagy)と呼ばれるプロセスである。これは, 生物遺体またはその分解途上の物質を栄養源として利用する微生物の生活のことである。
 汚水処理施設で発生する余剰汚泥が難分解性である原因は, 汚泥が微生物体であること, 微生物体が濃縮された塊になっていること, 凝集剤等の薬剤が混入されていること等である. さらに言えば, 余剰汚泥は, 大量のエネルギーを消費して, 人為的, 強制的, 生物化学的に製造された非自然的な産物であるため, 天然自然の腐生プロセスにはなじまないのである。
 しかし, 先に述べたように腐生とは生物遺体またはその分解途上の物質の生分解過程であるから, 好気性微生物の巨大な塊である汚泥も, 汚泥細胞自体は難分解性であっても, これを“分解途上の物質”に変容させ, 適度な条件さえ与えれば, 腐生プロセスは順調に進展する. この場合, “分解途上の物質”に変容させる処理工程が, 前章までに述べてきた『グルンバ・エンジン』による汚泥細胞の破砕・粉砕工程である。
 従って, 汚泥消散処理システムは, 『グルンバ・エンジン』を中核とした下図(図6)のような処理工程になる。

 図7のフロー図のように, 汚泥消散処理システムとは, 汚泥細胞を破砕・粉砕→微粒子化し, 発酵させ, さらに『ERS−7』という破砕汚泥微粒子消滅装置に投入して消散・消滅させるシステムである。
 『ERS−7』については, 次頁の概略図(図9)を参照のこと。 
図6のフロー図を実際のプラントで実現した場合のイメージ図が図8である。


汚泥消散処理システム フロー図

図6を簡略化すると, 図7のようになる。
簡略フロー図

A.汚泥消散処理工程の要点
 汚泥消散処理システム(図8)において, 余剰汚泥は最終沈澱槽から直接引き抜き処理を開始する。
 従って, 汚泥ケーキをつくる工程が不要になる。当然に, 凝集剤も不要になり, 汚泥ケーキの搬出→処分という工程は廃止される。
 引き抜き汚泥水は, グルンバ処理され汚泥水中の好気性菌の細胞構造がことごとく破壊された後, 発酵菌液が注入される. これにより, 微細な汚泥細胞破片に発酵菌がからみつき, 発酵分解がはじまる。分解途上の微細な細胞砕片は, 充分に発酵した後, 固液分離槽へ自然流下し沈澱する。固液分離槽で沈澱した細胞破片の一部は, 再度グルンバ処理槽へ返送され, 繰返し微粒化処理が施される。
汚泥消散処理システム イメージ図

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