1993.10
★”エイズ”を考える
HIVは性交では感染しない、
エイズはHIVが原因ではない…

 「エイズはセックスでは感染しない!心配するな!」…こう私が怒鳴った相手は、節夫君(仮名・29才)である。
 まさしく異常気象による冷夏と断定できる今年の夏、節夫君は、燃えるような熱い恋をした。愛する人の名は宏美さん(仮名・24才)といい、「水仙のように清楚な美人」だそうである。
パニックに陥った恋人たち
 美人がモテるのは、美しいからだ。だから美人は得である。少なくともミツグ君には不自由しない。宏美さんには、節夫君の前に恋人がいた。名前は皓一さん(仮名・26才)というミツグ君だった。
 この皓一さんの特徴は、嫉妬深いことだ。いや、嫉妬深くない人間なんていない。人間にとって最もコントロールしにくい感情は、嫉妬心だ。
 宏美さんに新しい恋人ができた! と知ったとき、皓一さんの嫉妬心は壊れた蛇口のように噴出した。愛は憎しみに変わり、憎悪は復讐心を呼んだ。
 “美人は3日で飽きる。ブスは3日で慣れる…”とかとバカな格言を言いつつ「つぎは美人には惚れるなよ!」と真剣に忠告してくれる友人もいた。しかし、皓一さんは聞く耳をもたなかった。
 皓一さんのやむにやまれぬ嫉妬心は、恐ろしくも悪辣(あくらつ)なる復讐の手段を発見した。
 ある晩、皓一さんは宏美さんに電話をかけ、いかにも真剣な声で呼びかけた。
 「早急に病院に行ってくれ! 宏美。半年前、ボクは確実にエイズに感染していたんだ。きょう保健所から、間違いなくエイズキャリアであるという知らせが届いた。」
 …そういえば、いろいろと思い当たるフシもあったっけ。皓一さんのあまりにも切実な弁舌に、宏美さんは、ただ茫然として疑うことを忘れてしまっていた。
凶悪な”性病ネットワーク”
途方もなく恐ろしいことになってしまった、愛する節夫君に全てを打ちあけて、どうすればいいか相談しよう。そう考えて宏美さんは、皓一さんとの恋の結末の一部始終を節夫君に話した。
 宏美さんのあまりにも切実な弁舌に、節夫君もただただ茫然として、すっかり疑うことを忘れてしまっていた。
 人間の世界において、最も強力にして凶悪なネットワークは、“性病のネットワーク”である。皓一→宏美→節夫という“性の連鎖”が、この世で最も恐ろしい“性病のネットワーク”に組み込まれてしまっていることは、もはや疑いがない。節夫君は宏美さんと手を取りあい性病の対策を考えたが、名案は思い浮かばなかった。
 性病の恐ろしさは、その症状の醜悪さもさることながら、その伝染性が強大にして迅速であることだ。
梅毒は2年で欧州に蔓延
 たとえば梅毒。1493年、コロンブスがバルセロナでイサベラ女王に謁見し航海の成功を報告している間に、梅毒はバルセロナ全域に蔓延してしまった。
 当時ヴォルテールは、この凶悪な病気が2〜3百年で世界全体に蔓延することを予想した。ところが実際の感染スピードは、今から考えても驚異的な猛スピードであった。
 イタリヤ、フランス、ドイツ、スイスに伝染したのは1495年であった。わずか2年の間に、ヨーロッパの全土が梅毒の爆発的な疫病禍にまきこまれてしまったのである。
 その後、梅毒は大航海時代の波にのり大変な速度で世界中に蔓延してゆく。
 日本に西欧人がはじめて上陸したのは1543年、ポルトガル人が種子島に漂着し鉄砲を伝来した年である。
20年後には日本に上陸
 では、梅毒が日本に「伝来」したのは何年頃か? 驚くなかれ! 梅毒の日本上陸は、鉄砲伝来よりも30年もはやいのである。梅毒を日本に運んだのは、たぶん和冦(日本人系海賊)か中国の商人であろう。大海を小さな帆船で航海していた当時、梅毒はヨーロッパから20年たらずで極東の島国に到達してしまったのである。 
戦国時代の日本に到着した梅毒は、老若男女、上下貴賎をとわずフルスピードで全国に広がっていった。
 関ヶ原で大奮戦した大谷吉隆や、徳川家康の実子・結城秀康といった猛将も激甚な梅毒の症状に悩まされた。
 こうして梅毒は、ヨーロッパから技術や宗教、思想や芸術、その他様々な文物が到着する前に、日本において大変な猛威をふるっていたのである。
 同じ頃、ヨーロッパではシューベルトが『未完成交響曲』を作曲しながら梅毒の発作に悩まされていた。パリでは市民のなんと三分の一が梅毒の感染者だったという。放浪の詩人・ヴィヨンも仏王フランソワ一世も英王・ヘンリ八世も梅毒に羅漢し死んでいった。
 ヨーロッパでは、黒死病(ペスト)の流行が社会構造を変革させ、ついには中世的秩序に崩壊させた。この記憶がまだ生々しいために、梅毒が爆発的に蔓延したショックはヨーロッパ全土に共通したものであった。
エイズをめぐる”非常識宣言”
 この梅毒という醜悪な病気は、いったいどこからきたのか? ヨーロッパ中で梅毒の起源に関してあらゆる階層の人々が議論をはじめた。これは、エイズに関して医者と厚生省の言うことを鵜呑みにしている現代日本の人々とは偉いちがいである。
 「エイズは性交渉によって感染する」…この認識は現代日本人の常識だ。
 「エイズの病原は、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)だ」…という考え方も私たちの常識になっている。
 そしてエイズに感染する恐怖のあまり、床屋でヒゲを剃らせなかったり、いたずらにタイ人を軽蔑したり、愛しあってる恋人どおしなのにノンセックスだったりと、滑稽な無知がはびこっている。
 この文章の冒頭に登場した宏美さんや節夫君、皓一さんもエイズ恐怖症の犠牲者であろう。
 「エイズはセックスでは感染しない!心配するな!」…こう私に怒鳴られて、節夫君は目を丸くして叫んだ。
 「うそッ!」
 私は、今度は冷静に話しはじめた。
 「HIVは性交では感染しないし、エイズはHIVが原因ではない……」
 この驚くべき“非常識宣言”の根拠となる事実を私は静かに説いていった。
”HIVなきエイズ患者"の報告
 まず、梅毒患者が爆発的に発生したとき、売春を職業としている人たちは、一人残らずと言っていいほど梅毒に感染する。 ところがエイズの場合、HIVに感染している売春婦はほとんどいない。
 血液製剤によるエイズ感染経路がほぼ断たれたいま、エイズ菌の最大の感染経路はセックスである。セックスが最大の感染経路であるとすれば、エイズは梅毒のように爆発的に蔓延したはずである。実際、エイズ患者の爆発的な増大は当然のこととして予測され、日本でも厚生省が中心となって大々的にコンドームの使用がPRされてきた。
 しかし、現実のエイズ発生情況を見てみると、「エイズはセックスでは感染しない!」と断言できる情勢なのである。
 次に、「エイズの病原はHIV(ヒト免疫不全ウィルス)だ」…という常識だが、これも大変おかしい。
 というのは、エイズ症状が顕著に現れているのに、HIV感染の証拠が皆無、という“HIVなきエイズ患者”の症例が続々と発見され報告されているのだ。
 ともかく、エイズ特有の症状とされてきたカリニ肺炎やカポジ肉腫が多発している現況を「エイズ=HIV病原体」説では説明できないのである。
 ここまで説明すると、節夫君は納得したらしく、「飯山さんの説を宏美が信用しなかったらどーしましょ?」などと、冗談さえ言いはじめた。
 ほんとにそーだ。だけど、今回の文章を『パソコン通信』誌の読者の皆さんが信用してくれなかったら、私、どうしたらいいんでしょう?


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